任意整理の一括返済はメリットがあるか? 任意整理前後で違うため注意が必要!

任意整理の一括返済はメリットがあるか? 任意整理前後で違うため注意が必要!

 

任意整理は借金の返済苦から逃れるために有効です。任意整理は原則として分割払いですが、一括返済をすればどうなるのか疑問に思われるかもしれません。

しかし、任意整理の一括返済をインターネットで調べると情報が様々であり混乱されるかもしれません。

 

そこで、この記事では任意整理で一括返済がどのように扱われるかを解説します。

情報が混乱している理由は、任意整理の一括返済は、任意整理の前後で大きく事情が異なるのに、これらを区別せずに説明されることが多いためです。

 

任意整理前は交渉を円滑に進めるために一括返済を提案することもありますが、負担額をできるだけ多く減らすためにはタイミングが重要です。

他方で、任意整理をした後は一括返済をするメリットはありません。

 

今回は、任意整理で一括返済するときに押さえておくべきポイントを任意整理の前後で区別して分かりやすく解説します。

 

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

 

1.      任意整理の一括返済はタイミングが重要

 

1.-(1)  任意整理=交渉であることを踏まえて一括返済を考える

 

任意整理は法的規定にのっとって行われる手続きではなく、クレジットカード会社や消費者金融業者などと直接交渉して借金総額は返済金額の減額を求める手段です。

 

裁判をすることもなく、当事者同士の話し合いによってルールが決められるので比較的幅広い交渉が可能なのが特徴です。

他方で、任意整理の交渉は貸金業者が拒否をすると失敗に終わります。従って、債務者側の論理だけでなく、貸金業者の利害関係を踏まえた提案をする必要があります。

 

1.-(2)  任意整理の成立前後で一括返済をするメリットが変わる

 

債務者であるあなたにとって、任意整理で一括返済をするメリットは借金の減額を図ることです。一括返済をする代わりに借金の総額を減らすように求めることになります。

 

そのため、任意整理で一括返済を行うときに重要になってくるのがタイミングです。

任意整理の前に行うのか後に行うのかで、債務者と貸金業者の利害関係が異なるからです。

 

結論からいうと、少しでも有利な条件で任意整理をしたいと思うのであれば、任意整理の前に一括返済を行うようにしなければなりません。

任意整理の後に一括返済をしてもメリットは少なく、かえって生活が苦しくなるリスクがあるので気をつける必要があります。

 

以下では任意整理の前と後で一括返済にどのような違いが出てくるのかを詳しく解説します。

 

2.      任意整理前に一括返済することで得られるメリット

 

任意整理は債務者と貸金業者で自由な話し合いができるため、交渉次第ではより効果的に借金の返済苦を軽減できます。

 

2.-(1)  一括返済を交渉材料として借金総額の減額を図ることがメリット

 

任意整理は借金総額や返済金額を減額できる方法です。しかし、通常の任意整理では借金総額を減らすことができるのはグレーゾーン金利等の高利で借金をしていた場合に限られます。

(参考)任意整理とは:借金減額の仕組み

 

しかし、任意整理前に一括返済ができるのであれば、グレーゾーン金利による借金でなくても借金総額を減額できることがあります。

つまり、ある程度まとまった金額を返済することを提案して、貸金業者に債権全額の回収を諦めてもらうという狙いがあります。

 

2.-(2)  貸金業者が一括返済の代わりに借金減額に応じる理由

 

もっとも、任意整理は貸金業者との交渉なので、貸金業者側に借金減額に応じるメリットがなければ失敗に終わります。

 

一括返済では貸金業者にどのようなメリットがあるのでしょうか。

もともとの貸付金額が減額されるとなれば、貸金業者が損をしているようにも思えます。お金を借りている立場で減額交渉するというのは一見すると理不尽なようにも思えますが、必ずしもそうとは言い切れない事情が貸金業者にあることはたしかです。

 

たとえば、任意整理では債務者のほとんどが返済手段に分割返済を選びます。

しかし、貸金業者の立場からすると3年~5年の分割返済が途切れることなく完済してもらえるなどとは期待できない場合も多いものです。

 

任意整理をした後に債務者の生活がどう転ぶかも分からない中で順調な完済を期待を抱くのは難しい場合があるのです。

もし、あなたが職を失ってしまえば、返済が止まってしまうことはもちろん、自己破産などを理由に借金の回収を諦めざるを得ない場合もあるでしょう。

 

貸金業者側からすると、一括返済による借金減額を拒否すれば、任意整理後に返済が止まって貸し付けたお金がほとんど返ってこないというリスクも想定しておかなければなりません。

貸金業者側からすると借金を減額しても一括返済を選ぶのは、分割返済が滞るリスクを回避できるメリットがあるからです。

 

2.-(3)  一括返済による借金減額を成功させるポイント

 

貸金業者側の事情を踏まえると、一括返済による借金減額を成功させるポイントはいくつかの点が挙げられます。

 

まず、借金減額の交渉は任意整理前に行うことです。任意整理が成立してしまえば返済するべき借金総額が確定するため、任意整理後に一括返済を申し出ても借金減額に応じて貰える見込みはほとんどありません。

 

次に、一括返済を調達できる理由を説明することです。

既に一括返済できる金額を持っているのであれば、貸金業者は強制執行をしてでも回収しようと思うでしょう。また、借金全額を返すだけの資金があれば、貸金業者も借金減額には応じません。

 

従って、「借金全額を返済するのは難しいが、借金減額に応じてくれれば親戚からお金を借りて一括返済できます」というようなストーリーがあれば、一括返済を理由とする借金減額に成功しやすいと言えるでしょう。

 

2.-(4)  どのぐらいであれば一括返済による借金減額ができるか

一括返済でどの程度の借金減額ができるかは、貸金業者側の対応方針と交渉の進め方によって異なるため一律には言えません。

一括返済による借金減額はお願いベースであるため、ほとんど借金減額に応じて貰えない場合もあるでしょう。

 

実務的な感覚としては、借金総額の2割をカットして貰えれば大成功と言えるでしょう。任意整理に強い弁護士が粘り強く交渉しても、借金総額の3割程度のカットができるか否かというところです。

一般的には、一括返済による借金減額は失敗する可能性もあり、2~3割でも借金総額をカットできれば大成功と思っていただくのが良いかと思います。

 

もっとも、一括返済ができる事情があるのは非常に有利な条件です。任意整理前であれば一括返済によって借金減額ができるチャンスがあると言えます。

一括返済を理由とする借金減額ができるかは専門家によっても見解が異なります。一括返済の代わりに借金減額を希望するのであれば、任意整理に強い弁護士に無料相談することをおすすめします。

 

3.      任意整理後の一括返済にはメリットがない

 

任意整理前の一括返済には減額交渉ができるというメリットがある一方で、任意整理後の一括返済にはメリットがないことがはっきりいえます。

 

3.-(1)  任意整理後の一括返済では支払金額は変わらない

 

まず、任意整理後に一括返済を行なっても借金総額自体は変わらないということを理解しておかなければなりません。

 

任意整理前に行うことができる減額交渉は、元金からの減額を図るので負担もだいぶ減らすことできますが、任意整理後ではとくに負担は減りません。

一般的には、繰り上げ返済は将来利息を払わなくてすむメリットがあります。しかし、任意整理の分割払いは、そもそも遅延損害金や将来リスクをカットされているため、一括返済をしても利息の負担が減るメリットすらありません。

 

どれだけまとまった金額を一括返済しようと、任意整理の手続きが行われたあとなので減額交渉することはできないため、任意整理前後で雲泥の差が出てしまいます。

 

3.-(2)  任意整理後の一括返済は期限の利益を放棄することになる

 

任意整理をした債務者は、返済の負担を軽くするための権利が与えられることになります。

 

「期限の利益」とは要するに借金を分割払いできることです。

任意整理をすることで借金を3年~5年という長期間でゆっくり返済できる利益(期限の利益)を得ることができます。

しかし、一括返済をすることは、ゆっくり返済できるはずなのに自分から期限の利益を放棄することです。

 

3.-(3)  一括返済をした後にお金が必要になるリスク

 

たしかに、借金問題から早く解放されるため無理をしてでも一括返済をして毎月の返済から逃れたいと思われるかもしれません。

しかし、任意整理後に無理に一括返済をすると、一時的に生活は苦しくなってしまうでしょう。

 

もし、一括返済をした後の生活で突発的な出費がかさんだりしたら、せっかく完済したにも関わらずまたお金を借りなければならなくなるかもしれません。

冠婚葬祭や不慮の事故などで、いつどのタイミングでお金が必要になるのかは誰にも分かりません。

とくに一括返済をするメリットがないのに対し、一括返済をすることで余計なリスクを負うことになるので、任意整理後の一括返済は行わないのが無難と言えるでしょう。

 

4.      任意整理の前後によって一括返済をするか否かは異なる

 

任意整理で一括返済をするとどうなるのだろうと思われるかもしれません。

インターネットで情報を調べると、任意整理前のことと任意整理後のことが区別せずに説明されているため混乱されるかもしれません。

 

この記事では、任意整理前であれば一括返済の代わりに借金減額を求めるメリットがある一方で、任意整理後であればメリットがないことを説明しました。

 

任意整理における一括返済で重要なのはタイミングです。もし一括返済ができる可能性があるのであれば、任意整理をする前に任意整理に強い弁護士に相談することをおすすめします。生活を楽にするためにも一括返済は任意整理前に行いましょう。