任意整理のデメリット よく質問される5項目と特定調停との違いを解説

任意整理をすれば借金問題が解決できると言っても、任意整理にデメリットがあるか不安になるかもしれません。

 

しかし、債務整理の中でも任意整理は一番デメリットが少ないと言われています。

任意整理のデメリットは何か、また、一番デメリットが少ないとされる任意整理は他の債務整理とどう違うのかを中心に徹底解説します。

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

 

 

1.     任意整理とその他の債務整理とのデメリットを比較

 

1.-(1)  任意整理のデメリットを考える2つの視点

 

任意整理のデメリットを考えるときには、任意整理自体にどんなデメリットがあるかと他の債務整理と比べてデメリットやリスクが多いかという観点から考える必要があります。

まずは、デメリットを比較する前提として、任意整理とその他の債務整理の種類について解説します。

 

1.-(2)  4種類の債務整理

 

債務整理には、任意整理・特定調停・個人再生・自己破産の4つの種類があります。

 

この中で任意整理とは、債権者と話し合いをして返済方法を改めて決める手続きです。合意すれば遅延損害金や将来利息はカットされるため、借金について毎月の返済金額の負担が軽くなる等のメリットがあります。

(参考)任意整理のメリット

 

任意整理の債務整理手段のうち、自己破産は、裁判所に申し立てをして借金をゼロにする手続きです。個人再生は、裁判所に申し立てをして借金の元本を含めて大きく減らしてもらう手続きです。

また、特定調停は簡易裁判所の調停委員に間に入ってもらって債権者と話し合う手続きです。任意整理と内容が似ていますが、特定調停は裁判所を介する公的な手続きとなっています。

 

任意整理のデメリットを考えるときは、自己破産・個人再生・特定調停と比較することがポイントです。

 

2.     任意整理のデメリットQ&A

2.-(1)  任意整理のデメリット①:ブラックリストに登録される?

 

結論:任意整理にはブラックリストに約5年間登録されるデメリットがあります。

 

債務整理をするとブラックリストに登録されることを不安に思われる方も多いでしょう。

残念ですが、任意整理をすれば約5年間ブラックリストに登録されるデメリットがあるのは事実です。

(参考)任意整理の期間について解決期間・返済期間・ブラックリスト期間を解説

 

任意整理だけでなく、どの債務整理をした場合も同様ですが、債務整理をしたことが事故情報としていわゆるブラックリストに掲載されます。

ブラックリストに載ると、クレジットカードを作ったり家や車のローンを組んだりキャッシングをしたりすることが難しくなります。

任意整理をした場合はブラックリストに載る期間は基本的に5年間です。

 

もっとも、ブラックリストに載るという任意整理のデメリットは、その他の債務整理と比べたときにはデメリットが少なくなります。

 

なぜなら自己破産等の債務整理を行っても同様にブラックリスクに載るデメリットはあるからです。

また、自己破産や個人再生をすると官報に情報が掲載されます。そして、官報情報は銀行などが照会する信用情報機関(全銀協:KSC)にはブラックリストととして10年間記録が残ってしまいます。

従って、自己破産・個人再生ではブラックリストは約5~10年間の掲載となります。

 

これに対し、任意整理は官報掲載が必要ないため、ブラックリスクの期間は5年間です。従って、任意整理は他の債務整理に比べてデメリットが少ないと言えるでしょう。

 

2.-(2)  任意整理のデメリット②:貸金業者が任意整理に応じないリスク

 

結論:任意整理は失敗するリスクがあるのは事実です。

 

任意整理をしたくてもできない場合があると聞いたことがあるかもしれません。

 

たしかに、自己破産や個人再生は裁判所を介して強制的に借金をなくしたり、減額したりすることができます。

これに対し、任意整理と特定調停は、話し合いをして貸金業者に譲歩してもらうものです。従って、交渉に応じない貸金業者がいるため任意整理に失敗する可能性がある点はデメリットと言えます。

 

もっとも、任意整理に失敗するリスクは理論上のものであり、実務上は任意整理に失敗することはほとんどありません。

任意整理に強い弁護士に相談した段階で、もし失敗する可能性が高ければ弁護士がアドバイスをするはずです。

 

また、任意整理に失敗すれば自己破産等を行うことになります。貸金業者としても元本が戻ってくるだけ個人再生や自己破産よりも良いと考えて任意整理に応じてくれるのです。

(参考)任意整理できる条件

 

2.-(3)  任意整理のデメリット③:車や自宅を取られてしまう?

 

結論:車や自宅を取られるのは自己破産のデメリットです。

 

債務整理をすると車や自宅を取られると思っている方がいますが、それは自己破産のデメリットです。

 

任意整理や特定調停では、どの借金に対して債務整理をするか選ぶことができます。

車のローンや住宅ローンがある場合には、車や自宅を残すために任意整理の対象から外すことができます。

従って、車や自宅を取られるデメリットを避けたいのであれば、任意整理を選ぶ方が良いでしょう。

 

逆に、自己破産や個人再生ではすべての借金が債務整理の対象となります。

正確には自己破産や個人再生は、全ての財産と借金を裁判所に開示して、財産を処分して借金を返済する手続です。従って、車や自宅も原則として手放す必要がある点がデメリットです。

 

なお、個人再生の場合は住宅ローン特則と呼ばれる特例があり、住宅ローンの支払いは継続したまま他の借金を減らしてもらうことができます。

車に関しては、債務整理が行われると債権者からの引き上げ要求があるため、手元に残すのは難しいかもしれません。ただし、車がないと生活に著しい支障が出るなどの理由で車の保有が認められるケースもあるので、裁判所の判断に委ねられることになります。

 

もっとも、任意整理は、自己破産や個人再生に比べて、車や自宅を取られるリスク・デメリットが少ない点は特徴と言えます。

 

2.-(4)  任意整理のデメリット④:家族や保証人に迷惑がかかる?

 

結論:任意整理では家族や保証人に迷惑がかからないようにできます。

 

任意整理をすれば家族や保証人に迷惑がかかるのではないかと思われているかもしれません。しかし、家族や保証人に迷惑がかかるデメリットは任意整理であれば回避できます。

 

まず債務整理をしても単に家族であるだけでは借金の返済に責任を負わされることは原則としてありません。家族、親戚や友人を問わず保証人であるかがポイントです。

 

そして、自己破産や個人再生をするのであれば、保証人に借金の責任が行くデメリットがあります。自己破産や個人再生は全ての借金を対象とするため、保証人に迷惑をかけるデメリットを回避できません。

 

これに対し、任意整理や特定調停では、保証人がついている借金や奨学金を債務整理の対象から外すことが可能です。

従って、任意整理であれば保証人に迷惑をかけずに借金問題を解決することができます。

 

2.-(5)  任意整理のデメリット⑤:任意整理をしたことが周囲にばれる?

 

結論:任意整理をしても周囲にばれるデメリットはほとんどありません。

 

借金をしていることや債務整理をしていることが職場や家族にばれたくないと思う方も多いでしょう。

債務整理をしたことがバレるデメリットを不安に思うのであれば、任意整理をすることをおすすめします。

 

任意整理は、弁護士が代理人として債権者と交渉してくれます。

家族に任意整理のことを秘密にしておきたい旨を伝えておけば、書類を自宅へ郵送せずに本人が弁護士事務所に取りに行くなどの手段を講じることができます。

任意整理の経験が豊富な任意整理に強い弁護士であれば、周囲にばれるリスクを最小限に減らすノウハウを知っているはずです。

従って、任意整理をしても周囲にばれるデメリットはほとんどありません。

 

これに対し、個人再生や自己破産をすると、官報と呼ばれる政府が発行する機関紙に住所や氏名が載ることになります。

官報は一般の人がわざわざ見ようとする機会は少ないため一般的には自己破産や個人再生をしても家族や職場にばれるリスクは少ないと言われています。

しかし、官報に掲載された情報は誰もが見ることのできるものですので、周囲にばれるデメリットの可能性という意味では、自己破産や個人再生は任意整理に比較してリスクが高いと言えます。

 

3.     任意整理と特定調停との違いとデメリット

任意整理と特定調停は他の債務整理手段に比べて、一般的に気にする方が多いデメリットが比較的少ないと言えます。

 

任意整理は弁護士に依頼して行うのに対し、特定調停は自分自身で裁判所を利用して行う手続です。弁護士費用を払うぐらいなら、特定調停をしようと考える方もいるでしょう。

そこで、任意整理と特定調停の違いとデメリットを比較します。

 

3.-(1)  手続負担のデメリットを比較

 

特定調停では、基本的に自分で手続きを行います。弁護士などに依頼することも可能ですが、弁護士費用がかからないところが特定調停のメリットなので、弁護士に依頼するとメリットがほとんど感じられなくなってしまうでしょう。

 

特定調停のデメリットとして手続負担が重いことが挙げられます。

調停委員が間に入ってくれるとはいっても、自分で債権者と話し合いをしなければならず、時間的にも精神的にも負担となる可能性が高いです。

また、裁判所は平日しかあいていませんので、平日に休みのない仕事の場合は休みを取る必要が出てきます。

借入先が多い場合には、ひとつひとつの借入先とそれぞれ交渉しなければならず、多くの時間を費やすことになるでしょう。

 

3.-(2)  周囲にばれるかという観点からデメリットを比較

 

手続負担とも被りましが、特定調停では自らが裁判所に行って手続を行う必要があります。

裁判所に行くために仕事を休んだり、うっかり書類を見られて周囲に借金問題がばれるリスクがあります。

 

これに対し、任意整理は弁護士に基本的に任せるため周囲にばれにくいです。周囲にばれるかという観点でデメリットを比較をするなら任意整理をおすすめします。

 

3.-(3)  過払い金や遅延損害金の観点からデメリットを比較

 

特定調停を進めている最中に過払い金があるとわかったとしても、特定調停の手続きのなかでは過払い金請求ができません。

過払い金請求を含めて債務整理をしたい場合には、最初から任意整理に強い弁護士に依頼したほうが手間や時間が省けます。

 

また、任意整理の場合は原則として和解成立までの遅延損害金は加算されません。しかし、特定調停の場合には調停成立までの遅延損害金が加算される場合があることにも注意したいところです。

 

過払い金返還請求や遅延損害金という点で損をする可能性があるのは特定調停のデメリットと言えるでしょう。

 

3.-(4)  取立てをストップする観点からデメリットを比較

 

任意整理・特定調停をすれば借金の取立てが止まることを大きなメリットして説明されることがあります。

 

しかし、取立てがストップするタイミングが違う点はご存知ですか?

任意整理であれば最短即日で弁護士が受任通知を送付すれば取立てが止みます。これに対し、特定調停の場合は、裁判所に申立てをする必要があり、申立書類を集めるまで時間がかかるため借金の取立てはすぐにはストップしません。

 

取立てがストップするまでの期間という点で比較をすれば、任意整理の方に分配が上がるでしょう。

 

3.-(5)  支払いができなかった場合のリスクからデメリットを比較

 

任意整理や特定調停をしても失敗する場合として、決められた金額を支払えないケースがあります。これは必ずしも手続上のデメリットと言うよりは、手続をした後のあなたの生活態度の問題です。

 

しかし、現実には支払いができなくなるケースもあります。このような場合、特定調停は強制執行をされやすいデメリットがあります。

 

特定調停によって話し合いが合意に至った場合には、調停調書が作られます。調停調書は裁判所が作成するものであるため強制執行ができます。

特定調停によって返済方法を譲歩してもらったにも関わらず、万が一返済が滞るようなことがあれば、給料差押えなどの強制執行がなされる可能性があります。

 

これに対し、任意整理で話し合いが合意に至った場合に作成されるのは、弁護士と貸金業者の間で作成される合意書や和解書です。

任意整理の場合は当事者間での話し合いの結果を記した書類ですので、それだけで強制執行をすることはできません。

 

4.     任意整理のデメリットを踏まえて適切な選択をする

任意整理をするとブラックリストに登録されるデメリットがあります。しかし、他の債務整理手段と比べて、任意整理はデメリットが少ないと言えるでしょう。

任意整理と特定調停については、特定調停は自分でできるメリットがありますが、様々な観点ではデメリットやリスクもあります。

 

なお、弁護士費用が払えるか不安で任意整理をためらっている方もいるかもしれません。しかし、手元にお金がなくても任意整理をすることはできるので安心ください。

(参考)任意整理の費用について費用相場やお金がなくても依頼できる理由を解説

 

任意整理のデメリットをきちんと考えた上で適切な選択を行いましょう。

もし、任意整理が良いか他の債務整理が良いか、そもそもあなたの借金問題が解決できるかを知りたいのであれば、任意整理に強い弁護士に相談することもおすすめします。

 

借入先が多いかどうか、金額が多いかどうかなど、置かれた状況によって適した債務整理の種類は違います。それぞれのメリットデメリットを知って、自分の状況に合った債務整理を選びましょう。